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南雲暁彦のThe Lensgraphy

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南雲暁彦のThe Lensgraphy
公開日:2022/06/21

Vol.7 MINOLTA M-ROKKOR 40mm F2「軽妙洒脱」

南雲暁彦

今回はM型ライカに装着して最も違和感のないライカ以外のレンズ、MINOLTA M-ROKKOR 40mm F2だ。ライカ設計、ミノルタ製造というレンズで、ミノルタCLEのために用意された18mm、40mm、90mmの中の一本である。

ライツCL時代からの詳細はご存知の通り、その初期型はSummicron C 40 F2としてドイツ本国で売られていたわけで、違和感がないのも当然と言えば当然だが、本家ライカとは違うキャラクターを持っていて、僕は良い意味でこのレンズに日本を感じとった。

40mmのブライトフレームをもたないライカM型に装着すると、35mmと50mmのフレーム間に40mmのフレームを想像し、大体この辺だろ、という感じの使い方になるが、意外とその「大体この辺」で行けてしまう。ここは外観とは裏腹に若干の違和感が存在するので、きっちりフレームを認識して撮りたい場合はライブビューを使用するかSL系のボディに装着しての使用となる。

フォーカスノブは、真ん中が出っ張った独特の形状。真ん中が円弧状に凹んだライカのそれとはかなり形状が異なるが、操作性に関しては特に使いにくいとは思わなかった。絞りリングはクリック感が少しだけ弱く、フォーカスリングと合わせて優しいフィーリングだ。

今回被写体に選んだのは、フィアット500。日本では映画「ルパン三世 カリオストロの城」で爆発的に認知度の上がったあの車である。

ルパン三世は、「アルセーヌ・ルパン」というフランスにオリジナルを有するものがヒントになり、日本で生まれた素晴らしいコンテンツだ。その象徴ともいえるアイテムの一つを、ライカ設計でありつつも日本で製造され、独特であり唯一無二の立ち位置を持つM-ROKKORで撮ってみようと思ったのだ。

日本の誇るコンテンツと物づくりの競演。僕の頭の中ではそういうことになっている。



夜明け前の青い空気がブラウン管から流れるアニメを思い出させる、そんなオープニングで撮影は始まった。 MINOLTA M-ROKKOR 40mm F2 1/45秒 F2 ISO3200

まだ暗いうちにオーナーと共に出発し、日の出前の青い光のなかで撮影を開始した。軽快なエンジン音が車内に容赦無く飛び込み、振動やガソリンの匂いが雰囲気を盛り立てる。僕も長いことイタリア車を乗り継いでいて大抵の車は動かせる。この車も運転させてもらったことがあるが、やはりオーナーの手に掛かると断然スムースに元気に走っていく。

さて運転はルパンに任せて、僕は次元になった気分でカメラを用意するのだ。マグナムと言うにはロッコールは可愛すぎるが。



「降りるんじゃねえ、突っ込むんだ!」などと言いながらカメラを斜めにしてシャッターを切る。この気持ちがわかる人は人生を楽しんでいる。 MINOLTA M-ROKKOR 40mm F2 1/60秒 F2 ISO3200


600ccのエンジンにアバルトマフラーが装着されたエンジンが後席の後ろに乗っかっている。ここはトランクリッドではなく、エンジンフードであり、撮影ポイントである。MINOLTA M-ROKKOR 40mm F2 1/180秒 F2 ISO6400

 40mmの画角自体はあまりにも素っ気なく刺激のないものだ。だからやはり「どうやって生きているの」「目の前の何と対峙しているの」ということを意識することになる。何か大層な、褒められるようなことをしないといけないとか、そういう事ではなく、ルパン風に言うと「どれだけバカなことを考えて、退屈しないで楽しんでいるのか」ということになるだろう。

このフィアット500を前にして僕は猿みたいに車の周りをぐるぐる周り、アングルを探し、シャッターを押し、声をあげた。フォトジェニック極まりない。


M-ROKKORは淡々と、しかしドラマチックにフィアット500を写していく。強い周辺減光はラウンドしたブラウン管テレビの様に主題を浮き立たせ、僕がフォーカスした場所はリアルにその質感を捉えてくれる。薄いボディは自らを主張せず、その操作感はあくまでソフトであり、使っている時の存在感の消し方はライカのレンズより一枚上手かもしれない。

ライツCLやミノルタCLEが生まれた時代、Mマウントの小型なボディに、このレンズがついたカメラは相当に粋だったのだろうと思う。僕は当時若くて手が出なかったが、また本当の意味でこういうコンセプトのカメラが出たら、今度は手に入れたいとさえ思った。



これをしばらく付けていると普段のズミクロン50mmをつけたM10-Pが重く感じる。ボディは軽くても写りはしっかりと重い。それは美点だと思う。 

日が上ってくると、可愛いボディカラーが本来の黄色味を帯びてくる。ルパンの乗っていたチンクと同じ色なのが気分を盛り上げる。


MINOLTA M-ROKKOR 40mm F2 1/90秒 F2 ISO400

「このレンズ、良いね。」ふと我に帰って呟く。 MINOLTA M-ROKKOR 40mm F2 1/60秒 F2 ISO1000


MINOLTA M-ROKKOR 40mm F2 1/60秒 F2 ISO200


そう言えば、この外苑の並木も無くなってしまうかもしれないらしい。 MINOLTA M-ROKKOR 40mm F2 1/180秒 F2 ISO200

今日は146年ぶりの暑さになるとニュースで言っていた、朝になり、それを予感させる熱気を帯びた光が差し込んでくる。さあ、もう一仕事だ。カメラをライカSL2-Sに変えて臨む。

このカメラの重厚なボディはちょっとマグナムを握っている様な気になり、とんでもなく高性能なファインダーはより正確にレンズが表現する光のニュアンスを伝えてくる。露出を落とした時の色ノリも良い。逆光時のフォーカスも良好。開放でガンガン使える。



MINOLTA M-ROKKOR 40mm F2 1/1000秒 F2 ISO100


建物の窓ガラスに反射した朝日が一瞬の奇跡を作り出す。「そうこなくっちゃいけねえ」とトリガーを弾く。 MINOLTA M-ROKKOR 40mm F2 1/640秒 F2 ISO200

夜明け前から早朝にかけての撮影だったが、このレンズを使っていて飽きることはなかった。35mmと50mmを2本持って行きたくない時にどっちにするか悩むが、これがあれば解決するんじゃないだろうかと思う。このちょうど良い感は非常に心地よい。

軽量なので大胆なアングルが作りやすく、夜明け前の光も、差し込んでくる朝日もサラッとこなし、窓越しのインパネに雰囲気を与え、描写に適度なキレと重量感を併せ持つ。このレンズを一言で表すならば「軽妙洒脱」、ルパン三世の様に、すごいことを軽やかに、巧みな手口でやってのける。ルパン三世とM-ROKKORは思い描いた通りに僕の中で繋がった。Made in Japanの良さを感じる競演だった。


MINOLTA M-ROKKOR 40mm F2 1/640秒 F2 ISO200

撮影を終えてちょっと休憩していたら、ミニクーパーがスーッと寄ってきてすぐ後ろに停まり、ドライバーが降りて近づいてきた。なんだろうと思ったら「一緒に写真を撮っても良いですか」との事。お互いにいいですよということになり、こういう競演になった(笑)


ちょっと追いかけっこをしているみたいで面白い。レンズに思いっきり光源を入れると、こういうフレアが発生する。手前の丸ボケはすごく良い。 MINOLTA M-ROKKOR 40mm F2 1/800秒 F2 ISO200
 
MINOLTA M-ROKKOR 40mm F2 1/2000秒 F2 ISO800

今回もこのチンクとそのオーナーに感謝したい。また、人生の出会いにも感謝したい。ずーっと被写体として狙っていたものを、やっと実現できた。

さて暑くなってきた。そろそろ帰るとしよう。

このフィアット500には冷房という名前のうちわが2枚搭載されていた。それもまた粋である。
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<プロフィール>


南雲 暁彦(なぐも あきひこ)
1970年 神奈川県出身 幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。日本大学芸術学部写真学科卒業。凸版印刷株式会社、ビジュアルクリエイティブ部所属 チーフフォトグラファー。世界中300を超える都市での撮影実績を持ち、風景から人物、スチルライフとフィールドは選ばない。近著「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意(玄光社刊)」。APA会員。長岡造形大学、多摩美術大学非常勤講師。コマーシャル・フォト「IDEA of Photography 撮影アイデアの極意」を連載中
 

<著書>


Still Life Imaging スタジオ撮影の極意