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南雲暁彦のThe Lensgraphy

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南雲暁彦のThe Lensgraphy
写真家 南雲暁彦が、様々なレンズを通して光と時間を見つめるフォトエッセイ
「僕にとって写真はそのままを記録するという事ではない。そこには個性的なレンズが介在し、自らの想いとともに目の前の事象を表現に変えていく。ここではそんなレンズ達を通して感じた表現の話をして行きたいと思う」
公開日:2022/07/22

Vol.8 Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mm F4.5 ASPH I型「理由などいらない」

南雲暁彦

今回は連載始まって以来のサードパーティー製、フォクトレンダーの超広角レンスだ。色々あって、これは普段僕が言っている「写真はどう生きているかだ」よりも「どれだけ撮影の引き出しをもっているか」が、重要なレンズである。

15ミリの画角は魚眼に近いもので、なにせ目の前の空間がグッと遠くなるし、肉眼で認識できない外側の空間をガバッと拾ってくるので、なにか具体的な被写体を選択してその表情を捉えるというよりバッサバッサと目の前の時空を喰らっていくような感覚の撮影になる。
ただそれを大雑把にやってしまうと全然面白くもない全てが遠くに小さく写った空間の写真を量産することになり、やはりここでは繊細な超広角を使いこなすスキルが必要となってくる。レンズは面白くても写真が面白くないと意味がないというわけだ。

このスーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型は、「ベッサL」と言うフィルムカメラの目測専用機に合わせて作られたレンズで、こちらもカメラ同様距離計カムをもたない目測専用レンズである。つまり当然我がM10-Pの距離計はどんなにレンズのヘリコイドを回そうがピクリとも反応しない、設計もフィルム時代のもので、周辺の色滲みがひどかったり今使うには正直欠点が多い。マウントはLマウントなので、Mマウントへの変換リングを使用した。

とまあ色々あるが、逆にまあ見てろと言うことで撮影開始だ。


手首にストラップを巻きつけてカメラを振り回す。大胆なアングルハンティングがこのレンズには必須だ。LEICA M10-P + Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型  1/60秒 F5.6 ISO640


時計を見ると撮りたくなるのは時間を止めるフォトグラファーの性か、しかもガラスでレイヤー化した空間はワイドレンズの大好物なのだ。Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型 1/90秒 F5.6 ISO320


車がスッと空間に吸い込まれる瞬間を狙う。Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型 1/250秒 F9.5 ISO200

このレンズの武器は何かというと、先ずは15mmというとんでもなく広い画角。目測専用という潔さからくるフォーカスタイムラグの無さ。ひたすら薄く小さく軽く、安い。。(容赦無く振り回せる)
しっかり構えてみたり、ノーファインダーで振り回してみたり色々できるが、大事なのはやはりフォトグラフィックアイで、自分の目を15mmに切り替えて歩き回れるかどうかだろう。

カラーでも少し撮影したがやはり色滲みがひどく画面右側にマゼンダの帯があらわれる。分かりづらく撮影するなり、色の中に溶け込ませたりと少しやってみたが、やはり最大の解決法はモノクロ撮影だ。


Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型 1/90秒 F4.5 ISO200


Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型 1/90秒 F5.6 ISO800


Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型 1/90秒 F9.5 ISO320

M10-Pにスーパーワイドヘリアーとビューファインダーを付けた姿はなかなか可愛い。
ただ僕は背面液晶で撮った方がしっかりアングルが作れるし、やはりこのビューファインダーの乗ったホットシューは僕にとっては純正サムレストの定位置なのである。


このセットアップの可愛さに免じて、ファインダーを外す前に額に入れて撮影した(笑)


Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型  1/500秒 F6.8 ISO200

何度も言うが超広角の画面作りは実はけっこう繊細で、余計な物も含めてガバッと拾ってくる空間をしっかり料理して自分の欲しい画面にするにはライブビューとサムレストの組み合わせが必要だった。そう言う意味ではサムレスト付きビゾフレックスとかがあると最高なんだがなあ、と思ってしまった。


Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型 1/500秒 F5.6 ISO200 

今まで歩いてきた場所のビジュアルを頭の中で15mmに切り替えてシュミレーションし、彼の地へ向かう。脳味噌の中でルーレットのようにレンズが回転し、この焦点距離のアングルでピタッと止まった。

面白いことに、自分のフォトグラフィックアイが15mmに設定されると、同時に今までに撮ってきた色々な15mmの写真が、ダーと頭の中に並ぶ。成功したのも、失敗したのも、カラーもモノクロも、「これを参考にしつつ、超えろってことね」などと思うが。炎天下の東京の空の下で、今の自分の足取りを持ってしてできることの限界に少し切なさを感じてしまった。世界中を飛び回ってあからさまにダイナミックな風景に15mmを振り回していた時とは時代が違う。
それでも、写真にかける情熱を失ったわけでもなし。今の自分の足跡を刻んでいくのみなわけだ。


空間をデザインしてリアリティをフォトグラフィーに変換する。Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型 1/90秒 F11 ISO320
 

Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型 1/60秒 F4.5 ISO1000

先に述べたように、このレンズ、どう今生きているか、よりどんな引き出しを持っているか、つまり「いままでどうやって写真に取り組んで生きてきたか」が勝負である。


Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型 1/90秒 F9.5 ISO1250

大胆かつ繊細に、空間を切り裂きパースを強調し、反射、透過、トーン、ノイズ、タイミング、全てをもってして撮る。


カメラを回転させながらシャッターを切る、写真世界への連絡道が見えてくる。Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型 1/45秒 F11 ISO6400


自転車置き場が昭和的宇宙人に出会いそうな空間となる。Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型 1/8秒 F4.5 ISO6400


Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型 1/8秒 F4.5 ISO6400


大きな鳥のような夜空が樹上に羽ばたく、肉眼では見えない世界での出来事だが目の前の現実でもある。Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型 1/30秒 F5.6 ISO6400


写真は目の前の現実を捉えたものに間違いはないが、レンズとフォトグラファーによって切り取られたその時空は現実を超えた表現となっていく。肉眼では決して見ることのできないもう一つの現実を作り出し、写真特有の世界を構築するものだ。

手にとった写真機は僕にとって時間を超えて記憶を重ね、ビジョンを作り出す気管だ。
音符を操り音楽を奏でる様に、言葉を駆使して小説を綴っていく様に、光と時間を収束し写真を紡いでいく。それは僕が世界と繋がる為の行為であり、写真家として生きた証となる。


どこに目を向けるかで世界の白黒は変わってくる、写真はそれを教えてくれる。Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型 1/30秒 F4.5 ISO6400

超広角レンズで撮影した写真は人の視角を超えて、時には鳥瞰のように客観的に、時には捻じ曲がった時空のように不思議な世界をつくりだす。だがそれは今目の前に並木道があり、それは暮れなずむ空にシルエットで浮かんでいて、僕がフォトグラファーだった。そういうことでしかない。

フォトグラファーは自然な時間の流れの中から人の琴線に触れる瞬間を見つけ出し、固定していくことができる人種だ。なぜ撮るのか、そこに理由などいらない。音楽家がなぜ音楽を作るのか、小説家はなぜ小説を書くのか、画家がなぜ絵を描くのか一々問う話ではないだろう。フォトグラファーになった時点でそれは呼吸と等しいことなのだから。

そうやってレンズを通して生まれたものが無意識のままに人の心を刺激し、動かしていく。それは文化をもつ人として自然なことなのだと思う。


Voigtlander スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH I型 1/30秒 F4.5 ISO6400 F4.5 1/8秒 ISO50000

今回の撮影にも特に報道や商業目的のような大義はない。簡単に言ってしまえば。

カッコいいなら、それでいい。
意味など後からついてくる。


エピローグ

カラーでの写真がどうなるかもう少し掲載しておこう。「これはこれで」と思うか「こりゃあかん」と思うかは観る人の判断に任せるとして、「僕は、まあ、まあ、いっか。。基本モノクロなら」と思った。わかっていて使う分にはね。








<プロフィール>


南雲 暁彦 Akihiko Nagumo
1970 年 神奈川県出身 幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。
日本大学芸術学部写真学科卒、TOPPAN株式会社
クリエイティブ本部 クリエイティブコーディネート企画部所属
世界中300を超える都市での撮影実績を持ち、風景から人物、スチルライフとフィールドは選ばない。
近著「IDEA of Photography 撮影アイデアの極意」 APA会員 知的財産管理技能士
多摩美術大学統合デザイン学科・長岡造形大学デザイン学科非常勤講師


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note

 

<著書>


IDEA of Photography 撮影アイデアの極意



Still Life Imaging スタジオ撮影の極意
 
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