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南雲暁彦のThe Lensgraphy

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南雲暁彦のThe Lensgraphy
公開日:2022/11/04

【後編】Vol.10 Leitz Wetzlar SUMMICRON 1:2 / 35 mm (第一世代) GERMANY 「明日は晴れる」

南雲暁彦

【前編】はこちら

 



「明日は晴れる」

久しぶりに今日の夕方から晴れるらしい。どんな時でも撮影はできるが、やはり大きな空の下で光を全身に感じながら、というのは気持ちがいい。まだ曇った空の中我慢しきれずにお気に入りの撮影場所に向かった。



Leica M10-P + SUMMICRON F2.0 / 35(以下、同)
1/1500秒 F2 ISO1600

 

1/500秒 F5.6 ISO200

まだらにちぎれた黒い雲が流れていく。もう少し、もう少しだ。M10-Pのバッテリーとカードの残量を確認する。大丈夫なのをわかっていても確認してしまうのだ。

 

1/2000秒 F5.6 ISO200

 
西向きの隅田川に煌めきが訪れた。通り過ぎる船の航跡波に質感を与えその現象をリアルに伝えてくる。なんでこんなことに反応してしまうのか分からないが、これはシャッターを切るべき瞬間なのだ。まあ、切ってしまったんだからそういう事にして理由は後で写真に聞こう。

レンジファインダーっていうのはいちいちレンズの描写を気にせず目の前の出来事に集中して撮れるという美点もある。そして35mmの持つ画角はその印象をそのまま残してくれるものだ。だから手を抜けないし、そうやって一生懸命生きたことをちゃんと残して欲しい。
このSUMMICRON8枚玉は合格。オールドとか伝説と関係なく、ひたすらにど真ん中な写真らしさを、僕の欲しかった表現を描きだす。やはり優先されるのは人の感性なんだと思う。

東の空を見ると少し青空が覗き、西からの光が金属に本来の素材感を与えはじめている。


1/4000秒 F 4.0 ISO200


カモメが僕の目の前をスパッと横切った、体が反応して追いかけシャッターを切る。光を連れてきた使者のようにその後ろから青空が広がり始めた。

「明日が晴れたぞ!」

 


1/350秒 F5.6 ISO200



1/1000秒 F8 ISO200


太陽光の直射に途端に色を取り戻していく風景。雲が近くに感じ、建築物の立体感が際立つ。橋のゲートが天空に伸びていく回廊のように見えたり、外灯がそこを飛ぶ乗り物のように見えたりして面白い。頭の中は天空の城に来てしまっている。
 

1/750秒 F11 ISO200
 

1/4000秒 F4 ISO200

 

一本下流の橋に向かって歩くことにした。僕の上を光の使者が虹をまとって飛び、こっちですよと導いていく。ああ、俺も飛んで行きたい。
 

1/750秒 F5.6 ISO200

 

1/1000秒 F5.6 ISO200

空を見ながら歩いていると空間から何かがニョキニョキと生えてきて、
 

1/750秒 F5.6 ISO200

街が浮かび上がってきた、ここにも天空都市があったんだ!と、どこかで聞いたようなセリフを呟く。


1/750秒 F4 ISO200
 

リアルな世界も、空想の世界も、写真の表現力を持ってして楽しめるものだ。それは幸せな事であり、孤独なことでもある。見てくれる人がいて、楽しんでくれる人がいると信じる。それが全てだ。ここで知り合いとすれ違うこともなく、一人の時間が過ぎていく。
 

1/1000秒 F5.6 ISO200

下流の橋の真ん中で、さっきまでいた橋が今日の最後の光に照らされているのをボーッと眺めていた。ちょっと寂しくなってきたが、グッとカメラを握り締めて堪える、ここで夕日を待って、トワイライト、夜景、ラーメンで締めだ。

待ち望んでいた光がそこにあって、撮りたかったイデアとシンクロしていく。集中力が増していく。

 


1/90秒 F2.0 ISO200


1/750秒 F5.6 ISO200

雨上がりの水たまりで映り込みを狙おうと思っていたがそれは期待外れで、その代わり写真の神様が用意してくれたのは船が通った時にリバーサイドに打ち寄せてくる波が作った水鏡だった。

さあ、東京に写真の魔法をかけよう。



1/90秒 F13  ISO200

1/125秒 F8.0 ISO200


ライトアップが始まり、人工光と自然光の共演が始まる。

1/90秒 F2.0 ISO200

1/45秒 F2.0 ISO200
東京に現れた蜃気楼のような一瞬だ。


何のために写真を撮っているのか分からなくなることがあった。こんな事は必要ないことなんじゃないか、もっと大事なことをしなければいけないんじゃないだろうかと考えることがあった。でもそれは写真や芸術に対して、そもそもの人が作った文化ということに対しての認識不足だと知る。

深夜に愛機と語る。本気で生きろと愛機が言う。





すっかりライトアップされた勝鬨橋を望む、さて、あそこに戻るとしよう。最後に撮る場所は決まっている。


1/30秒 F2.8 ISO2000

1/45秒 F2.0 ISO2500

勝鬨橋の銀座側のたもとに水を使った小さな構造体があって、そこが僕のこの辺で一番気に入っている撮影場所だ。ここを水鏡にした風景が好きで、昼間も美しいのだが残念ながら今日は水が汚れていて昼間は絵にならなかったのだ。でも夜の強い反射なら撮れると思い、メインディッシュにと考えていた。

最後の力を振り絞って、いくぞM10-P、ついてこい伝説の8枚玉。




1/30秒 F2.0 ISO3200

思った通り、そして35mmでドンピシャだ。ここはみんなで並んでこの景色が見られる場所ではなく、ほんの数十センチ幅の、この高さのアングルでだけ見ることができる風景、写真にすることで成り立つ風景なのだ。世界にはそういう場所や瞬間がたくさん存在する。

カメラにしてもレンズにしても、その性能や素晴らしさを証明できるのは一枚の写真でしかない。正直レンズが何枚構成だろうが僕には関係ないし、伝説の名玉だからいい写真が撮れるとも思っていない。ただ、今こうやって残っているものを使って自分でも作品を作ってみたいと思った。そこにしか自分の中に真実は生まれないし、それを伝えることが自分の仕事だとも思っている。

撮影を終え、つぶさに写真をみて思ったのは「そこにレンズがあることを忘れるぐらい見た風景、決めた構図や露出がそのまま撮れている」ということだった。ちょっと信じられないぐらいの透明感とでもいおうか。まあ、後は写真に語ってもらおう。



1/45秒 F2.0 ISO2000

最後にお気に入りの場所で生まれた写真のバリエーションをお見せして、この旅を終わりにしようと思う。街を入れてその場を感じられるようにした。自分が歩いた時のことを重ねて感じて欲しい。まだ訪れた事のない人は行ってみたいと思ってくれると幸いだ。


1/30秒 F2.0 ISO1250

前述のようにこの場所ではロマンチックに肩を並べて一緒にこの風景を見ることはできない。そんな場所で一人必死にこの写真を見てもらう事を思って、頑張っている自分を客観的に見て少し笑ってしまった。

まあ、でも、それがフォトグラファーなんだよな。分かってはいるのだが今一度そんな事を思わせる8枚玉は、やはり名玉なんだと思う。

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<プロフィール>


南雲 暁彦(なぐも あきひこ)
1970年 神奈川県出身 幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。日本大学芸術学部写真学科卒業。凸版印刷株式会社、ビジュアルクリエイティブ部所属 チーフフォトグラファー。世界中300を超える都市での撮影実績を持ち、風景から人物、スチルライフとフィールドは選ばない。近著「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意(玄光社刊)」。APA会員。長岡造形大学、多摩美術大学非常勤講師。コマーシャル・フォト「IDEA of Photography 撮影アイデアの極意」を連載中
 

<著書>


Still Life Imaging スタジオ撮影の極意